1955年に発表された最初の「インヂュニア」は、強烈な磁気にさらされる危険の高い技術者や科学者を対象としたモデルであり、このことからこの画期的なシリーズは技術者を意味するドイツ語である「インヂュニア(英語のエンジニア)」と呼ばれるようになったのである。
やがて1976年、フリーランスの有能な時計デザイナー、ジェラルド・ジェンタによって潜水服のヘルメットに想を得た、五つの穴でベゼルを固定する方式を採用し、高いデザイン性を獲得。こうして誕生した「インヂュニア SL」は、今や伝説となっている。
その後も幾多の変遷を経て現在に至る「インヂュニア」のコレクションだが、2013年、IWCとF1チーム「メルセデスAMGペトロナス」の提携を契機として完全にリニューアルされることとなったのだ。
この提携によって、IWCは2013年から3年間、メルセデス・ベンツ社作業チームのオフィシャル技術パートナーとなるが、これは単なるスポンサー契約ではなく、完璧性と正確さを求める互いのクラフトマンシップを融合させ、技術的により高いポジションを目指すという。つまりこれがIWCが言う「パフォーマンス・エンジニアリング」なのである。
その最初の成果としてIWCの技術陣は、F1の世界からインスピレーションを受け、カーボン、セラミック、チタンアルミなど、モータースポーツの世界で多用される先端素材を導入し、新たなデザインを生み出した。
こうして新たに生まれ変わったインヂュニア・コレクションのカバーする領域は、コンスタントフォース(定力装置)やトゥールビヨン、永久カレンダーといった複雑機構を備えるモデルから、伝統的な三針のクラシックなモデルにまで及び、IWCというマニュファクチュールの底力を、我々に再確認させたのである。